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東京高等裁判所 昭和43年(う)1151号 判決

被告人 山中喜勝

〔抄 録〕

控訴趣意第一点の一、原判示第一の(二)の加重傷害に関する事実誤認並びに法令の適用の誤の論旨について。

よつて案ずるに、暴力行為等処罰に関する法律第一条の二第一項に規定する傷害罪は、傷害の故意ある場合に限るものと解すべきであり、同条第二項においてその未遂罪を罰することとしているのも、本罪が故意犯であることを前提としているのである。

これを本件について考察するのに、原判決の挙示した関係証拠はもちろん、本件に顕われた全証拠を検討しても、原判示第一の(二)の、被告人の高島清之に対する傷害行為が、傷害の故意をもつてなされたものと確認するに由なく、従つて、原判決が、右傷害行為が前記暴力行為等処罰に関する法律第一条の二第一項違反の罪に該当するとし、同項を適用、処断したのは、証拠の価値判断を誤り、ひいて事実を誤認し、法令の解釈、適用を誤つたものといわざるをえない。もつとも前記各証拠によれば、被告人は高島清之を脅すため日本刀の抜き身を同人の首ないし胸のあたりにほとんど接着せんばかりに突き付けたところ、高島が驚いてそれをさけるため、右手で該日本刀を払おうとしたため拇指を切られ、原判示のような傷害を負つた事実が認められ、このような行為はそれ自体、人の身体に対し不法な有形力を行使したものというべく、右行為が刑法第二〇八条所定の暴行に該当することは明らかであり、高島はこれをさけるために日本刀を払おうとしたため受傷したものであるから、このような場合には、右傷害の結果は被告人の前記暴行によつて生じたものと解するのが相当である(昭和二五年一一月九日最高裁第一小法廷判決、刑事判例集第四巻第一一号二、二三九頁及び昭和二四年三月二四日最高裁第一小法廷判決、刑事判例集第三巻第三号三七六頁参照)。従つて、被告人は本件行為について刑法第二〇四条所定の傷害罪の責任を負わなければならない。そして、原判決は前記第一の(二)の被告人の行為とその余の原判示第一の(一)、第二及び第三の各所為とを併合罪として一個の刑をもつて処断しているのであるから、前記事実誤認ないし法令の解釈、適用の誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるというべく、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

控訴趣意第一点の二、原判示第二の報告義務違反に関する事実誤認並びに法令の適用の誤の論旨について。

よつて案ずるに、原判決の挙示した関係証拠、特に、被害車両の運転者である飯塚準一の司法警察員に対する供述調書並びに被告人の原審公判廷における供述及び検察官に対する昭和四三年二月二九日付供述調書(七枚分)を総合すれば、原判示第二の報告義務違反の事実を肯認するに十分である。

所論は、被告人は被害車両との接触事故が極めて軽微であり、且つ当時酩酊していたため、該事故について全く認識がなかつたのであるから、報告義務違反の罪の故意を欠いており、同罪の成立を認める余地がなく、又仮りに被告人に事故の認識があつたとしても、そもそも右の報告義務を科する所以は、交通事故によつて発生した道路における危険に対する措置と被害者の救護等を図ることを目的とするにあるところ、本件接触事故は前記のとおり極めて軽微なもので何ら交通の危険等は発生しなかつたことは明らかであるから、このような場合にも報告義務に関する道路交通法(以下道交法と略称する。)第七二条第一項後段を適用するのは法の趣旨に反する結果となると主張する。

ところで道交法第七二条第一項後段所定のいわゆる物損事故に関する報告義務違反罪が成立するためには、物の損壊の事実が発生し、しかも当該車両等の運転者らがこの事実を未必的にせよ認識したことをもつて足るものと解すべきところ、(昭和四〇年一〇月二七日最高裁大法廷判決、刑事判例集第一九巻第七号七七三頁参照)、被告人は原審公判廷及び前記検察官に対する供述調書中において、本件接触事故を起こしたことについて認識していた旨明確に供述しているばかりでなく、前記飯塚準一の司法警察員に対する供述調書によつて認められるところの、同人運転の被害車両の右側後部に被告人の車両の前輪附近が衝突し、車体後部が衝突のシヨツクで振られたとの事実、又その衝突により被害車両に原判示のような凹損三か所が生じている客観的事実並びに加害車両が大型貨物自動車であり被害車両が普通乗用自動車であるから、被害車両に大なり小なり損壊を生ずることは容易に想像できる点等に徴すれば、被告人は被害車両の損壊の事実につき少くとも未必的認識を有していたものと認めざるを得ない。そして、前記道交法第七二条第一項後段が報告義務を科しているのは、警察官をして、速かに交通事故の発生を知り、被害者の救護や道路における危険の防止等交通秩序の回復につき適切な措置をとらしめ、もつて被害の増大の防止と交通の安全とを図るにあるものと解されていることは、所論指摘のとおりであるけれども、そうであるからといつて、所論のように物の損壊の程度の大小、交通の危険の具体的発生の有無等は、同条項の報告義務に影響を及ぼすものではないと解すべきである。けだし、同条項の法意は、物損事故の場合、事故を起こした運転者らに速かに報告をさせ、事故の内容に即した処置を講じ得るようにすることを目的とし、たとえ損壊の程度は軽微であつても、現場における危険防止等の措置の要否、程度は、事故現場収拾の責任者とされている警察官に判断させようとするものであると解されるからである。これを本件の具体的事情について考えてみると、前記被害車両の損壊の程度は、大きなものといえないとしても、必ずしも、所論のように極めて軽微なものであるとは認め難いのみならず、被告人は前記のような物損事故を起こしながら、直ちに停車することなくその損壊の内容を確認することさえせず、そのまま進行したことが証拠上明白であるから、前記報告義務を故意に怠つたものとして罪責を問われることは当然である。その他論旨に徴し記録を精査しても、原判決には、何ら事実誤認ないし法令の適用の誤は存在しない。論旨はすべて理由がない。

(栗本 石田一 金)

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